雲一つない晴れやかな空。彼岸ということもあって少々賑わう緑鮮やかな広大な墓地に、御神(みかみ)博樹(ひろき)は到着した。広大とはいっても、一畳ほどの墓地が、所々隙間を空けながらざっと三〇〇基ほど並ぶ程度の規模だ。入り口には池を囲んだ庭園があり、季節が変われば桜が咲き、花見でもできようかといった豊かな佇まいである。お墓としては十分な環境といえるだろう。

彼岸といっても平日だったため、お参りに来ている人は程々で、五台入る駐車場は全部空いていた。その一番右側にワインレッドのワンボックス軽自動車をバックで止めて、御神はゆっくりと車を降りた。これといってかしこまった服装ではなく、ネルの長そでシャツにジーパンのラフなスタイル。しかし墓地なので、供花と数珠はきちんと用意してきていた。

御神家の墓は数並ぶ墓石の入り口あたりにある。車を降りた博樹は、共用の水桶と柄杓を片手に歩を進めた。父は優しい人だったが、病気にかかり、早くに亡くなってしまった。工場を放ってはおけないため、独り身の母親の面倒をろくに見ることができず、間もなく後を追うようにして母親も亡くなった。母の面倒を見られなかったのが博樹の後悔となっている。

仕事のことなど言い訳にならない。人の一生だ。申し訳ないという気持ちに幾度も駆られたが、今の博樹は自分の事で精一杯だった。かなり追い詰められていた。墓石の前に立つと積もり積もった思いが一気に溢れ出てきた。

「父ちゃん、母ちゃん、やっぱり俺駄目だったよ。昔から俺どんくさかったからな。あのときあんた達の言うように田舎で公務員になっていればよかったんだよ。幼馴染の雅美ちゃん、結婚したんだってなあ。俺、実はあの子好きだったんだよ。母ちゃんはお薦めだって……いや、済んだ話はもうやめよう」

一通り吐き出して気を取り直した博樹は、丁寧にお墓を拭いて、花を手向け線香をたいた。墓の敷石に腰を下ろしタバコを一服。ようやく今日は雲一つない青空だということに気が付いた。