【前回の記事を読む】報告書からシュールレアリズムの思想性、政治性を見る

ゲルニカ誕生の時代背景

(2)シュールレアリズムの思想性政治性に就いて

二十世紀の初頭から中間小ブルジョアジーが急速に崩壊、没落するに至り、今迄資本主義の平和的發展の中に個人的生活の喜び、資本主義の社會組織を謳歌してゐた印象派、象徴派等の藝術的傾向は影をひそめ立體派・表現派・フォヴィズム・未來派・ダダイズムが世界美術の主流となったのである。

これ等は夫々に特性を持ってゐるがその本來の性質は急進的小ブルジョアジーが大ブルジョアジーに對する反抗として生まれたものである。この終りの時期にダダイズムから流れを汲んで生まれたのがシュールレアリズムである。このシュールレアリズムも小ブルジョア的内容を持った革命的な藝術運動である。

一方に唯物論の上に立脚したマルキシズムの藝術があり、一方には傳統的な藝術が動かすことの出來ない地位を占めてゐる。この中間に存在を續けてゆくことははっきりとした存在價値を示さなければならない。

茲に於いてシュールレアリズムは「夢の領域に最高の藝術的インスピレーションを見出しそれによってフロイドの精神病理學の領域と心理學の世界にまで研究を深め」、在來の藝術的表現の傳統と完全に絶縁した新しい藝術としての存在を明かにしたのである。

この夢、精神等の世界に鋭いメスを入れることを根本としてそれによって製作活動を續けてゐたのである。この活動によって革新されたものは古來よりの習慣・藝術の價値基準を破ったこと、人間の潜在意識を明るみにまで出して示したこと卽ち夢・狂氣等異常なものと現實との結びつきに依り新しい現實が生まれること等を見せたのであった。