【前回の記事を読む】経営者にバカヤロウ!と言って会社を辞めた男が向かう先は…

未来への手紙と風の女

一瞬だった。一瞬で会社は全てのものを失った。経営者は呆然として、何もしなかった。いや、当面を切り抜けるために、社員をどんどん解雇した。銀行は手のひらを返したように会社に借金の返済を迫った。貸し剥がしは激しかった。投資のためにと言って無尽蔵とも思えるほどに貸し出された資金はあっという間に底をつき、不動産の価値は瞬く間に消えていった。
 

本業を忘れた会社は哀れだ。取引先もつぶれていた。新たに取引先を見つけるなど、ほとんど不可能だ。経営者は、銀行の融資を引き出そうと、さらなる人員削減計画を作り、価値が激減した不動産を売りまくったが、何の足しにもならなかった。辛うじて残っていた取引先とのつながりを持っていた僕に、経営者は無理難題を言い続けた。そして、僕は経営者を見捨てた。

以来、僕は、自分が、どこに向かって、生きていけばいいのかわからないものの、ただ一歩ずつ歩いてきた。要領が悪いわけではないものの、人一倍に優れているわけでもない。何か、自分にふさわしい仕事を見つけたいともがき苦しんだ。だけど、長い人生を歩んでいくには、けして、近道などないと言い聞かせ、遠回りをして生きてきた。この遠回りの人生にも、いろいろな景色があり、成功にまっしぐらの人生とは、まるで真逆の別世界だった。

── 成功したい。何に成功したいとは、具体的にはなかった。だけど僕はきっと、成功したいと願っていた。そう願えば、必ず成功できると信じていた。いくつかの職業に就き、成功したと思える状況から、あっという間に転げ落ちることもあった。挫折を味わい、自分の思い描くストーリーのようには、人生はうまくいかないものだと、悟った気にもなった。

成功した人は大勢いる。しかし、どのような成功の裏にも数多くの挫折があったはずだ。いや、人生は挫折の連続でできているのかもしれない。自分の前に困難が立ちはだかったら、── 神様は、自分に乗り越えられない試練は与えない。と、信じた。