押し寄せる放射線

新星大爆発による放射線の強力波が、第1陣・第2陣と次々に津波のごとく押し寄せて来る。生命も電子機器も、強力な放射線に当たればすべて破壊されてしまう危険がある。

iPS細胞と動植物細胞の保管には万全を期してはいるので問題がないと思われるが、電子機器や超電導磁石、超大型コンピューターやマザーのすべてを鉛とタングステンシートで覆いきることはできない。居住空間もこの放射線のすべてを防ぎきることはできず、レントゲンのように放射線が通り抜けた。

この放射線の津波が通り過ぎた後、乙姫の言動がおかしくなった。頭をハンマーで殴られた様になり「私は誰? ここはどこ? 私、何しているの?」などと、訳のわからないことを言って朦朧としている。

マザーの機能が低下し、システムが反応しなくなってきて、そして、遂にフリーズ状態になり、画面が消えて全く反応しなくなった。大量の放射線がコンピューターの中に過電流を発生させ、マザーの安全装置が乙姫の機能を停止させたのである。

マザーのAIコントロール装置が、乙姫の再起動を開始した。乙姫は時間が経つにつれて、徐々に機能を回復するが、過電流があまりにも強烈であったので、言語障害を引き起こしてしまい言葉をうまく話せない。乙姫は、マザーの中の言語修復プログラムを再インストールして修復を図るが、マザーも混乱状況に陥って通常通り稼働できないでいる。そんな中で、最も重要な機関である原子力エンジンが不気味な音を出し始めた。

燃料棒の引き出しが危険状態になると自動的に引き上げられる。どんどん燃料棒が引き上げられ、艦内の電気が消えていく。ウラシマの電源が、非常用だけを残してすべて停止した。出発以来、初めての出来事である。このままではウラシマは姿勢制御を失い、自分の位置を見失い、宇宙の果てに投げ出されてしまうことになりかねないし、原子力エンジンが福島原発のように爆発するかもしれない事態である。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『U リターン 【文庫改訂版】』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。