【前回の記事を読む】宇宙の中の砂漠地帯にて、出発して以来の最大の危険が到来⁉

苦難の刻

巨大浮遊惑星との遭遇

その結果、織田も乙姫の助言のもと腹をくくって突入することに決めた。乙姫は、この砂塵がウラシマにどの程度の影響を与えるか詳細に計算した。スピードを上げれば衝撃が大きくなる。かといって遅ければ衝撃は小さいが、砂塵に当たる量が多くなる。最適化計算が繰り返され、ウラシマへの衝撃をいかに減らすかの対策が立てられた。

米粒のような砂の微小隕石群である。この砂漠地帯にウラシマがまともに突入すれば船体の表面が砂で削り取られてしまい、本体に穴が開いてしまいかねないことが判明したが、この時点ではもはや回避することはできない距離に来てしまっている。

ウラシマの本体は、月の石で城壁の石垣のように防御されているが、高速で飛ぶウラシマにはこの砂塵が予測よりも多いため、少しでも砂塵が少ないところを探しながら進むしかないが、いずれにしてもものすごい衝撃となる。

そこで、偵察衛星のハヤブサロボがウラシマ建造中のときに地球の周りを回っている大量の宇宙ゴミからウラシマを守るときに使っていた、折り畳み式のこうもり傘のようなバリアを広げることとなった。

この傘バリアは日本伝統の折り紙方式で小さく4段に折り畳まれているが、広げると直径千メートルにもなる。傘の表面にはアルミ箔が貼ってあり、このアルミ箔に砂塵が突き刺さる。突き刺さった砂塵は小さな光を放ちながら分解して消滅する。この傘バリアの通過したところを、ウラシマがまるでトンネルを潜り抜けるように通る作戦である。

ウラシマの中に残されているハヤブサは4基、このうち2基はエンジンの不調によりすぐには使いものにならない。今先頭を飛んでいるのを合わせて3基でこの砂塵からウラシマを守ることになった。砂塵の量は思ったより多く、傘バリアはみるみる穴だらけになり骨だけを残した。そしてハヤブサロボも次々と砂塵に削り取られるように消えていく。3基目のハヤブサロボが砂漠の中に消えたとき、やっとのことでこの砂漠地帯からの脱出に成功できた。

ウラシマは、このハヤブサロボの傘式バリアの身体を張った献身的防御によって通過できたのである。一歩間違えば、ウラシマは砂の餌食になっていたかもしれない。

乙姫は人間の決断を目の当たりに体験して「息をのむ感激」というのはこういうことかと初めて感動した。計算では回答の出ない決断を教えられた。