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普通の朝

六時起床。私は一番先に台所に入った。結婚祝いに友達からもらった、純白のレースつきのエプロンをかけ、朝食のしたくに取りかかった。サラダとハムエッグ・紅鮭・ほうれん草のお浸し・漬け物・納豆・味付のりとご飯とみそ汁が今朝のメニューだ。

どこにでもあるごく普通の朝の風景。台所のテーブルに四人分の茶碗と汁椀と箸をセットした。居間にある仏壇と神棚に、お供え物を上げた。自営業をしているため、当然のように神棚があった。そこには、小型の神社・宮形の中に氏神札が入っている。水と塩・榊が飾られ、しめ縄がゆったりと飾られていた。背伸びをして、そこに上げる水を毎朝とり替えた。商売繁盛と家内安全を祈願して。

朝食ができたら、まずはじめに伯父に運んだ。伯父は耳が不自由だったが、毎日規則正しい生活を送っていた。きちんとした人だった。私が唯一、平常心で接することができる家族だった。もう少し本音で言うなら、安全な人だった。

姑と舅もあとから時間差で起きて来た。一番遅いのは夫。目覚まし時計のアラームをセットしているのだが、役に立ったのを見たことがない。何のための目覚ましなのだろうか?

時間になっても起きて来ないので、私が起こしにいくのだが一度では起きてこないため、二、三度は部屋へ足を運んだ。朝の五分は貴重だ。甘えているのだと思うことにした。朝の気分は損ねたくない。一日のスタートは、気分良くありたい。

そう思っていた矢先のことだった。指摘事項を向けてくる舅がいた。またか…。心は決して楽しい方向へはいかなかった。

「このみそ汁の豆腐の切り方が揃っていない。きちんと四角を揃えて切らないと、お客さんが来た時、笑われるからな」

と怒鳴った。

「はい、気をつけます」

と、私はみそ汁の中の白い四角形を見つめながら、精一杯明るく答えた。定規で測って切らなければ満足してもらえない劣等感にさいなまれる。

人は環境に順応していく能力が備わっている。はじめは多少の違和感を感じるが、ここで生きていかねばならない時、適応する力が発揮される。そうしなければここでは生存不可だ。

私には、今の居場所からいなくなるという選択肢は、この時はまだなかった。それとは正反対に、一日も早く家風に馴染む努力をしていこうと意欲的で前向きな気持ちでいた。頑張ったら何とかなると思っていた。

フーッと息を吐いた。息を吸い込もうとした次の瞬間、電話がリリリリンと鳴った。私は急いで受話器を取った。