【前回の記事を読む】「鶏口になれ」父の教えの下歩んだ人生…79歳・社長を襲った悲劇とは

創業そして解散

思えば、腰砕けに前兆(ぜんちょう)はあった。数年前から冬になると、右足太股の古傷(ふるきず)に見え隠れする(うず)きに悩まされて、ついには作業中に突然一筋の痛みが上下に走ったりした。疼きは(しび)れを伴うようになっていった。

それが、ついに姿を現したのだ。元年八月の盆休み十五日の朝のこと。目覚めたその場で、経験したことのない、とてつもない腰・尻周りの痛みで身じろぎできなくなったのだ。

痺れや痛みに、すでに通っていた近くの整形外科から処方された胃薬つきの痛み止めを服用していたのに、全く二ミリの“コガタコガネムシ”ほどにも“ヒメアリ”までも効き目がない。先生は早い時期に脊椎(せきつい)のレントゲンを撮っていた。

症状(しょうじょう)から原因をつかんでいたらしいことが今となって推量(すいりょう)できる。レントゲン写真を何枚か見せられても所詮(しょせん)素人(しろうと)。分からないまま頷くしかなかった。はっきりしない口調(くちょう)で“ここが少しずれているかなあ”と独り言にして、ここで総合病院への紹介状(しょうかいじょう)を出さないのは先生の思惑(おもわく)だったと思う。

(まち)医者(いしゃ)はいわば個人(こじん)事業(じぎょう)(ぬし)で、なにがしかの従業員を抱えて、ご自身の健康が資本なのは、身に覚えがあるから共感(きょうかん)できる。是非(ぜひ)はともかく個人病院は世間並みに盆と正月は休業する。激痛(げきつう)自覚(じかく)した瞬時(しゅんじ)、どうしたものか混乱(こんらん)してしまった。