不思議な時間が過ぎていく。

さっき出逢ったばかりの人と、呼吸をするように会話をしている。

「人は皆んな何の試験もなく、知らないうちに大人に昇格するでしょう? しかもそれが合格かどうか、誰も答えを知らないのよ。だったら、少しでも若いうちに『考える』という色んな試験を受けて、間違いや失敗という選択肢の中から大人になるための正解を出さないとね」

結局、あれこれ迷って回り道をした方が、ゴールへの近道になるのだろうか……。わからない事だらけだな……と、佳奈は少し無理をして笑って頷いた。

「今、考えたり行動してる事の結果が、数年後の未来のあなただから」

言い終わると里香も微笑んで、ふと店内に流れる音楽に気がついて天井を指差すと、

「私、この曲好き」

と言って目を閉じた。

美しいピアノの旋律が、時間を(まと)うように流れる。佳奈は(うつむ)いて、両膝のスカートを握り締めた。今までの自分が心底くだらなくて、何もかも一からやり直したいくらいだった。だけど、そのくだらない出来事があって傷つき、泣いて、迷いながら決断や判断ができるようになるんだろうとわかった。

だから苦しみや悩みを、自分から取り除くのではなく、(むし)ろ抱えながら痛みと共存していく事が、大人になる試験の最高得点を取る道しるべなんだと思えた。

今、何か言葉を発したら、声を上げて泣き出しそうで、佳奈も店内に流れるピアノの曲に集中した。人々が小走りで行き交う窓の外の構内と、今、自分達がいる場所とでは時間の進み方が、佳奈にはまるで違うように見える。

ちょうどその時、電車の運転再開のアナウンスが流れた。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『ギフト』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。