【前回の記事を読む】ハレンチ嫌いの彼女の能力「下ネタを話すなら死を覚悟すべき」

ハレンチの敵

それは南雲さんの初めて書いた小説がオパビニア新人賞なる賞を受賞した時の話だ。まだ彼らが大学の三回生であった頃である。オパビニア新人賞を受賞した南雲さんは風太より一足先に社会人デビューをした。その彼女を社会の荒波が襲ったのだ。正確に言うとそれほど荒波でもなかったのだが、ハレンチ嫌いの彼女が過剰に反応してしまったらしい。

オパビニア新人賞を受賞した彼女のもとに取材に来た男性は、元来のやんちゃボーイであった。彼は南雲さんの美貌に惚れ込むと、少しばかりしつこく彼女に言い寄ったと聞く。それをすごく気持ち悪いと感じたそうである。

風太から見ればその男性は南雲さんに好意を寄せただけで「ハレンチな行為」の範疇なのかどうかは、正直怪しい。その男が相当な気色悪さを顔にくっつけた、顔面セクハラジジイというのなら話はわかる。しかし仕事仲間に聞く限り、どちらかと言えば取材に来た彼はイケメンの部類らしかった。

南雲さんが世間の人間の恋愛感情について、こと男のそういった愛情について理解の浅い所があったのは認めざるを得ないだろう。南雲さんは美人なのだから、親密な関係になりたいと思ってしまうのは男の性というモノだ。ただイケメンを懲らしめたという点においては彼女を称賛したい。

誰に対しても冷たい視線を突き刺していく彼女の、平等性に満ちた瞳に敬礼である。兎にも角にも、ハレンチ嫌いの南雲さんがその突き刺さる冷たい視線を取材者へぶつけたのだから仕方がない。彼女の背後に現れた次元の裂け目が吹雪を起こし、それはそれは大惨事になったと聞く。それ以降、彼女は取材をことごとく拒否するようになったのである。

「出会ってすぐの人に言い寄るなんて信じられない」それが南雲さんの言い分だ。考えものだな、風太はそう思った。

「じゃあ取材はキャンセルということで」

「うん」と彼女が肯く。

「サイン会の日は」

「再来週の日曜日、十四時半」

「流石、よく知っているなあ」

南雲さんが「えっへん」というように笑った。