恭子は転校という形を取り、街から姿を消した。

とある山中に国の管理区域があり、そこは立ち入り禁止区域とされていた。区域の一角に極秘の養成所が存在し、研究設備のような建物の中で恭子は外界と完全遮断された生活を送る事になった。敷地はフェンスに囲まれ、出入りには検問を通らなければならない。

監禁のような境遇。恭子は、それを受け入れた。ここでは通常の授業もあった。それとは別に、世界情勢や日本の立ち位置。各国のパワーバランスやこれからの世界情勢を予測する授業。作戦任務における戦術学などを学ぶ。特に愛国心については洗脳と呼んでも良いくらいだ。

体育と称される時間では、銃の扱いや体術、ナイフ術、模擬野戦まで行う。明らかに兵士を、それもエリート兵士を育成する施設だった。授業でも爆薬の製造の仕方、セキュリティを破る方法なども教わった。

恭子は体術の授業や模擬潜入作戦などで、相手の気を失わせる能力を特に集中して磨かれた。特に苦労したのは、肌が全く出ていない、フル装備の相手に対して攻撃する術を学ぶ事だった。結局この訓練では、恭子のスキルは直接の接触によってしか発揮されない事が証明されただけだった。

しかし訓練によって、身体能力は確実に向上していった。

恭子の最終目的は己のスキルで相手の意識を奪う事だったが、最初の内は相手に触れる事さえ出来なかった。相手がナイフを持っていたら、同じナイフで対抗しても力量が違った。銃を持っていればなおさらだ。近付く事さえ出来ない。

ナイフ術・体術はめきめきと技術を上げていく事が出来たが、結局恭子が身につけたのは隠密術だった。

相手に気づかれずに近付く。

視界に入らなければ、標的に気づかれる事はまず無かった。そのまま背後に近づき、そっと首筋に触れる。それだけで相手の意識を奪えた。そして隠密術を応用した回避術。相手の意識をらせる事で、相手は恭子が瞬間移動したのではないかと思わせる程の移動術を身につけた。

恭子の技術は驚くべき早さで向上していったが、訓練相手を殺すわけにはいかない。常に感情を殺して戦闘訓練するのは、非常に神経をすり減らす行為だった。ストレスは日々増していった。訓練で身につけた鋭敏な感覚も、それに拍車をかけていた。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『スキル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。