【前回の記事を読む】結婚後無職になった夫「だから儲からないんだ」妻へ衝撃の一言

のぞみの結末

光彦にとって、佐々木淳美は理想に近い女性だった。彼女が自分に好意以上の気持ちを持ってくれているのも知っていた。それなのに光彦は淳美に告白できずにいた。

光彦には、大学生時代に付き合っていた彼女に自殺された過去があった。光彦からの別れ話に、彼女から自殺をほのめかすメールが毎日のように届いたが、光彦はそれをただの脅しと受け取り、無視し続けた。

大学の卒業式当日、彼女は自ら命を絶った。光彦は悔恨の念にかられたが、もう手遅れだった。それを忘れるために光彦は懸命に働いた。自分は女性を不幸にしてしまう人間なのかもしれない。そう思うと、淳美に告白する勇気が光彦には持てなかった。

そんな心の隙間に遠藤あかねが入ってきた。淳美を忘れるために、情けない自分を忘れるために、光彦はあかねと付き合い始めた。初めはあかねに対して申し訳ない気持ちもあったが、あかねの自分にはない屈託のない笑顔と積極的な態度に、いつしか光彦もあかねに惹かれていった。

あかねには何でも自分で決めたがる傾向があったが、それも光彦にとって歓迎するところだった。仕事に関しては誰よりも積極的だった光彦だが、それは仕事に対する責任感のためであり、実際の光彦はプライベートでは優柔不断な男だった。デートの日取りからデートコース、食事場所まで決めてくれるあかねがいれば、何も考えずについていけばいい。それは光彦にとってもありがたかった。

それがいつからか、あかねと一緒にいることに窮屈さを感じるようになっていった。たまに言う自分の意見や希望をまったく受け入れてくれないあかねに対して、不満は募るばかりだった。

そんなとき、あかねが佐々木淳美を連れて食事に現れた。淳美はやっぱりきれいだった。光彦のあかねへの思いは急速に冷めていき、その分淳美への思いが膨らんでいった。あかねのことを相談したいという理由をこじつけて、光彦は淳美を食事に誘った。

淳美も喜んでいるように見えた。

「あかねは明るいし、一緒にいて楽しいことは楽しいんだけど、強引すぎて、ついていけないところがあるんだ。それに自分の思いどおりにならないと、すぐにカッとなって口汚い言葉を吐いたりするのがね」

「あかねはお嬢様育ちだから、両親に相当甘やかされて育ったみたい。だから、世の中何でも自分の思いどおりになると思っているのよ」

「もうちょっとおしとやかになってくれればいいのにね。佐々木さんみたいに」

「ありがとう。いつでも相談に乗るわ」

「そう、それじゃあまたお誘いします」

光彦はおどけた口調で淳美に言った。

光彦と淳美はその後頻繁に食事をするようになった。あかねと会う回数は徐々に減っていき、いつしか淳美と会う回数のほうが多くなった。

(あかねと別れたい。でも別れるとなると、きっとひと悶着起きるだろう)

しかし、あかねとの別れは向こうから突然やってきた。

「光彦、あなた浮気しているでしょ。それもあっちゃんとだなんて。ふざけるのもいい加減にして」

あかねに詰め寄られて、光彦は今までに積もり積もった鬱憤をすべて吐き出すような大きな声で答えた。

「そんなことあるわけないじゃないか。そんなに疑うなら、本気で浮気してやろうか」

「ひどい。それなら勝手にすればいい。こっちから別れてあげるわよ」

あっけない別れに光彦は拍子抜けしたが、これで淳美に自分の思いを伝えられる。