プロローグ

「生徒会役員選挙に立候補?」

「そう。一緒に出馬しないか?」

彼のメガネの奥の目が、軽やかに笑う。まるで、グラウンドでサッカーしようと提案する日常のように。でもこの男、冗談でこんなことを言うようなやつではない。それは幼稚園の頃からずっと変わらず。唐突に何かを発するときは、必ず意味があった。

けれど一緒に、って俺だけ落選することは考えないのか?

「小学校のときの児童会だって、無事に当選しただろ。心配はいらない」

「それは先生の推薦があったから」

俺の不安な声は届いていないのか、彼は俺の机にどんと左手をつき、右手でぴしっとピースサインを決めた。

「そして来年、二年生になったら生徒会長になるんだ」

あ、ピースサインじゃなくて、二年生の二、か。

会長になりたいなんて野望があったことは知らなかったけれど、先生や同級生、部活の仲間からも信頼が厚い彼は、リーダーにぴったりだ。でもそのことを伝えに、わざわざ俺のいる一年A組の教室に来るなんて、ちょっと彼らしくないな。俺は五時間目の理科の教科書を机から出しつつ、「へー、似合ってるよ」と背中を押すような発言をしておいた。

彼はその教科書をすっと取り上げる。俺の顔が自然と彼を見上げる。

「おれじゃないよ。君がやるんだ」

この話、やっぱりスムーズには終わらなそうだ。