一九七〇年 夏~秋

2 秘密基地の大貧民

「ど好かんやっちゃ」

痰を靴裏でなすり付けてきます。

私は正座したまま動けませんでした。

「するんか、せんのんか」

岡田が恫喝(どうかつ)します。

追い詰められたマユミは微(かす)かに頷(うなず)きました。

「よっしゃ、するんじゃな」

岡田が破顔(はがん)して洋一を放しました。

「ほな、パンツ脱げ」

潰れた鼻孔を広げています。

「パンツ脱いで、おちゃこ見せえ」

歪んだ唇を更にねじ曲げて、黄色い乱ぐい歯を剥き出しました。

「おまいも見たいじゃろ。こいつのおちゃこ」

岡田が私に言いました。

「一番見たそうな顔しとるわ」

七條はまた私を小突きます。

「どすけべが」

皆の視線がマユミに集まりました。

マユミは突っ立ったままです。

「自分で脱ぐか、無理矢理脱がされるか、どっちゃな」

岡田が迫ります。

「はよせえ」

足を踏み鳴らしました。

マユミは飛び上がり、逃げ場を探して後退(あとじさ)りします。

「逃がすな。やっちゃれ」

七條と中川が同時に襲いかかり、マユミを転がしました。

「パンツじゃ。はよう脱がしてひまえ」

「じっとせえ、こいつ」

「手えと足持っとけ。ワイが脱がすけん」

七條が両手首を押さえ、中川は蹴られながら足を持ちます。

「やめたって」

さすがに私も止めに入ります。

「じっとしとらんかい。痛い目に遭(あ)いたいんか」

私は岡田に胸を蹴られて尻餅をつきました。

マユミの下半身が丸見えになっています。太腿は露わになり、パンツの中心に黄色い染みができていました。私は『ハレンチ学園』の『柳生みつ子』を思い出しています。洋一は床に突っ伏したままでした。

「泣っきょるぞ。こいつ」

マユミの顔がひしゃげています。

「泣け泣け。なんぼ泣いても絶対にやめちゃれへんけん」

岡田はマユミのパンツに両手をかけました。マユミが足を動かしますが、中川と七條が押さえつけます。

「おまいが自分でするっちゅうたんでえか」

一気に引き下ろしました。

「おちゃこじゃあ」

どよめきが起こりました。

「毛えが生えとんでえか」

「ほんまじゃ。ちょびっとな」

「うちのお母はんのはボウボウじゃけんど」

「どこがおちゃこな」

「毛えの下とちゃうか」

「これか」

「穴とちゃうでえか」

「ようわからんな」

「もっと広げてみい」

中川が大きく開脚(かいきゃく)させました。乱れた髪のかかりがマユミの顔を隠しています。

「おちゃこってややこいの」

岡田が覗のぞき込みました。

「おまいも見てみい。初めてじゃろが」

そう言われてつい横目で見てしまい、唾を飲み込みました。

それは傷のようでした。かるく触れただけで血を流しそうです。きつく閉じ合わさって線にしか見えません。そんな物を生まれながらに備えているマユミが不憫(ふびん)になりました。

「これにちんぽが入るんじゃろ」

岡田が指先でなぞっています。マユミは身体を硬直させて耐えていました。

「絶対無理じゃわ。裂けてひまうでえか」

「ほんなことないじゃろ。赤ん坊やってこっから出てくるんじゃけんな」

「大人の女の話じゃろ」

「こいつはまだ子供じゃけん」

「ワイにもさわらしてくれ」

中川は手を伸ばし、がさつな指先で触れました。

「どんなにおいな」

七條が聞きます。

「ちょっとションベン臭いわ」

指を嗅(か)いだ中川が答えました。

「味はどうじゃろか」

「塩っぱいんとちゃうか」

「おまい、ねぶってみい」

「わあった。しゃんと押さえとってな」

七條がマユミの股間に顔を埋めようとします。

突然、洋一が跳ね起きました。奇声を発しながら両手を振り回します。

「なんなこいつ。気いが狂うたんか」

中川は洋一の腹に前蹴りを見舞いました。

昼飯に食ったうどんを吐きながら、洋一が前のめりに倒れます。

その僅かな隙に、マユミは手を振りほどき、素早くパンツを拾うと、梯子へ向かって跳躍(ちょうやく)しました。転げ落ちるように階下へ逃れた際に、空のミルク缶を突き転がし、それは牛舎の隅に佇(たたず)む人影を直撃します。

「危ないでえか」

祖父が目を剥きました。

洋一も意味不明のことを喚(わめ)きながら外へ飛び出して行きます。マユミの姿はもうどこにも見えませんでした。

「おまいや。ほこでなんしょうるんじゃ」

祖父が睨んできます。

「トランプしよる」

私は二階から声を張りました。

「仲良うせなあかんでないか」

祖父は年のわりに豊かな頭髪に手櫛(てぐし)を使いながら、尻ポケットから潰れた煙草を取り出します。昼間から飲む酒が首と胸を赤く染めていました。

「喧嘩やしょうれへんわだ。大貧民しよってちょっと熱うなっただけじゃ」

※本記事は、2020年4月刊行の書籍『金の顔』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。