「息子の挨拶は悲惨だよな」

「それより、長女って何にもやらないじゃんよ」

「さっちゃんの爪の垢でも飲ませてやりたいね」

本人には聞こえないだろうが、省吾の席には聞こえてきた。そして、全くだと思った。葬儀を終え、火葬場で休憩して祓いの膳。そして焼いたお骨を骨壺に入れて解散となる。しかし、そのまま東京に帰るのも何なので、家族五人で少し話をした。

「ここってさ、毎年ブラインドスポットが来るんでしょ?」

「そうだよ。私もチケット申し込んだことあるよ。ハズレだったけどね」

「へえーー、お母さんブラスポ好きだからね」

「うん。ブラスポもそうだけど、ゲストも豪華だよ。ジュークボックスも時々来るよ」

――「ブラインドスポット」とは四人組の男性ロックバンドで、バンド名の意味は「盲点」だ。言ってみれば、「その手があったか!」的なアイデアを使ってファンを幸運へ導く。度肝を抜かれる歌の歌詞やファッションでファンを魅了する。省吾は幸子たちの話を聞いて「今年も来るのかよ」と言った。

「うん。省吾も行きたい?」

「行きたいけど、俺は仕事だよ」

「そうか。私も行きたいな」

雪乃は子供がおもちゃを欲しがるかのようにそう言った。そのあと幸子は、

「あのね、お母さんはここに暫く残るからさ、みんなそれぞれの場所に戻っていいよ」

「大変じゃん! お母さん、無理しなくていいよ」

「そうだよ。おじちゃんやおばちゃんはお母さんに何でも押しつけて、お母さんばっかやってるじゃん!」

すると父大志は、

「お母さんはね、夢があるんだってさ」

「えっ? どんな?」

「そんな、子供に言わなくてもいいじゃんよ!」

「聞きたい! 教えてよ!」

すると、大志が語った。

「お母さんはね、ここで、恵まれない子供たちを引き取って、我が子のように育てたいんだって! 子供から手が離れたからさ、小さい子を預かって畑仕事を教えるんだって」

「そんな、畑仕事って、子供じゃ無理でしょ」

「最初はアルバイト雇って、そのうち子供が育つから、ゆっくり教えるんだって」

「へえーー、いい夢だね、お母さんらしい」

「やっぱりお母さんは凄いなあ」

「雄吾、雪乃、ありがとう。何だかワクワクするよ」

と幸子が言った。

「俺もワクワクして来たよ」

省吾も嬉しくなってそう言った。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『携帯エアリー』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。