【前回の記事を読む】シュールレアリズムの「内務省警保局の報告書」の抜粋を掲載!

ゲルニカとの対面

廣島縣に於けるフォルム美術協會竝に廣島ローマ字文學會(略稱RBK)内に於けるシュールレアリズム繪畫竝びに詩運動の状況

第二号畫題 松

此の作品は自然の物體がどの程度變形出來るかと言ふ事を狙ひ松の枝の逞しさ、幹の強さを表現するために機械の如く變形し、機械の持つ鋭い感覚を角か牙の如く象徴し、機械に生命を與へる爲眼玉の如きものを入れたものであるが、自然の松が持つ形態を人間の意思(知識、藝術)の力でどこ迄形を變へる事が出來るかと言ふ事を示し、一面現實のものに飽き足らない退屈さを打ち破る革命的意志を表現し、斯くした作品を通じ先づ廣島畫壇への革命的雰圍氣を醸成しシュールレアリズムの繪畫運動へ積極的協力を爲さしめ古いものを徹底的に打破し、總ての畫派をシュールレアリズムの旗の下に結集せむとした。

第三号畫題 顔(素描)

此の製作には(ピカソ)の素描の影響を多分に受け之れを採り入れて居るが、同作品の狙い處は今迄繪を見て居る人達に對し、繪畫と謂ふものの凡常な觀念を打破する爲現實卽ち今迄の姿と謂ふものへの反抗意識を表現しそれに因って一般作家に對し官學派的素描に反抗せしむる意慾を喚起する爲である。

第四号畫題 破鳥

同作品は「プロメテ(著者注:プロメテウス)」をモチーフしたものでプロメテはギリシャ神話の中にプロメテが人類に灯を與へる爲太陽の處へ灯を盗みに行き遂に太陽より罰を受けてコーカサスの山頂に鐡の鎖で繋がれ、毎日鷲に肝臓を喰はれて居る繪畫で、之は人間の苦悩とそれに耐へて行く力と謂ふものを象徴し、それは必然的に壓制に苦しむ無産大衆の苦し味と其の壓制に對し何處迄も闘爭せねばならない意志力が必要であることを表現したものである。

第五号畫題 散りゆく花(素描)

同作品は花瓣の一部分を擴大し枯れた花や散って行く花ビラを交緒(著者注:錯か?)した構圖で、製作意圖は人が餘り注意を拂はない、枯れて散り行く花を題材としたもので、散り行くものを静かに見守ると、生きて居た時與へられて居た識能を精一杯に出し立派な花として見られて居たのだと想像する時幻想的なものに結び付きシュールレアリズムの意義を發見することが出來る。

第六号畫題 馬

此の作品は單に馬であるが、元氣よく立ち上がって居る馬ではなく、倒れている馬である、これに依って普通の形態をそなえてゐるものに對して、視覚(この視覚は單に眼に移ると云ふよりは、階級の差によって異なるものであることを意味する)を變へることに依って随分異なって見え、それに依って異常な感覺を持つことが出來ることを示し、それと共にこの馬は強力なものに倒されたか、または激しい勞働によって力のつき果てた馬であっても、そのどちらであってもさう云ふ馬に對する愛着やら、倒した者に對しての激しい怒り、過度なる勞働力へ對しての抗議等の意味を持って居るものである。

(二)廣島ローマ字文學會(R・B・K)内の活動

中心分子坂本壽は三等郵便局長の身分的關係より従來日和見的態度にありたるが、前顯山路商との交友竝に

春山行雄著 詩と詩論

福澤一郎著 シュールレアリズム

西脇順三郎著 超現實主義詩論

瀧口修造著 新藝術論

アルス社發行 フロイド精神分析學入門

同 超現實主義の交流

同 フロイドの超意識心理