【前回の記事を読む】【小説】「その一瞬の視線の交わりが、僕をとりこにした…」

未来への手紙と風の女

彼の勤めるBARが店を閉じた頃、僕は会社を辞めていた。本業を忘れ、不動産投資に金をつぎ込んだ馬鹿な経営者に愛想が尽きたのか、それとも、己の失敗を反省もせず、会社の生き残りのためだと、無造作に社員を解雇する姿勢に愛想が尽きたのか、なぜだか、わからない。ただ、無性に、頭の中でぐるぐる回る何かに突き動かされただけなのかもしれないが、僕は、経営者に、バカヤロウ! と言って、会社を辞めていた。その後のことをどうするか、なんて考えてもいなかった。ただ、そこからいなくなりたかっただけなのかもしれない。

そして、車を走らせ、故郷のKUMAMOTOに、僕は、帰ってきた。広い、牧草地帯に寝ころびながら、僕は空を見上げていた。そして、出雲の方角を見ていた。夜のとばりが下りてきたとき、何かを探すかのように、僕は車を駆っていた。海岸線を走り抜け、やがて、とあるホテルを見つけた。そのホテルを見つけたとき、僕は安堵した。そう、嵐の中に翻弄される小さな帆船が、小さく輝く灯台の明かりを見つけたときのような安堵感だ。

自然と僕は、そのホテルに車を止め、中に入った。”BARGOYA”懐かしい、名前がかけてあった。ホテルの最上階にある。ためらわず、僕は、そのBARに向かった。扉を開けると、すぐ目の前に海が広がっていた。夜のとばりの向こうに海が見える。その海に向かって、ほのかな明かりがたゆたっている。

──ああ、あのBARと同じだ。あの店の明かりと同じだ。

僕は、そう思うと、カウンターに腰掛けていた。

──いらっしゃい、待ってたよ。

友人が僕の前に”YOKOHAMA”を出しながら、笑いかけていた。あれから、何年が過ぎただろう。友人は、BARが閉じられてからのことは話してはくれない。ただ、

──BARを閉じるその日、彼女が来たよ。

と言った。僕はそう、とだけ言って、遥か彼方に置いてきたこと、彼女のことを思い出していた。それから数年は、僕はKUMAMOTOで過ごしていた。その間、何度か、”BARGOYA”を訪れた。この店はいいね、と言う僕に、友人は、ありがとう。海が近いから気に入っているんだ。と言う。”YOKOHAMA”は、あのときの味のままだけど、二杯目を注文すると、少しだけアレンジを変える。そして、必ず僕に、