【前回の記事を読む】「僕の夢は、男に生まれ変わり好きな人と結婚をすることだ」


最初の違和感

僕の幼い頃の記憶は幸福なことばかりだ。休みになれば、父や母、姉たちと必ずどこかへ出かけた。長期の休みには旅行へ行き、親戚の家にも泊まっていた。毎日が充実していた。あの頃はとても幸せだった。僕はそんな両親の背中を見て感じたことがある。この家に生まれて良かったと。いつまでもこんな幸せが続けばいいと願っていた。そして、もしも僕が大人になったら同じような幸せを築ける人と結婚したいと漠然と考えていた。

この頃も今も父は、浮気もしなければ家族以外の付き合いを断り、僕たちのために時間を作ってくれた。そんな父は僕の誇りだった。僕はいつか父のようになりたかった。幼稚園生活はよく笑っていた。いつも男女関係なく遊んでいてみんなと仲が良かった。おままごとには父親やお兄さん役として参加をしていた。遊びの中でも僕は鬼ごっこやかくれんぼが好きだった。時々、違うクラスの友達が来ると僕を見て笑っていた。

「恵子ちゃんって変なの。そんな遊びが好きなのは男の子だけなんだよ」

「え?」

「本当だ。恵子ちゃん変なの」

僕が一人でブロックやウルトラマンの人形で遊んでいた時、年上の女の子たちは僕を指さして笑った。理由は分からないが嫌な気持ちになった。それから僕は家でブロック遊びやミニカー、仮面ライダーごっこで遊ぶようになった。服装は姉のお下がりでもそこまでは気にすることもなかった。ただスカートだけは絶対に穿かずにズボンのみを選んでいた。

幼稚園の秋の出し物で『アリババと四十人の盗賊』をすることになった。それぞれのやりたい役に挙手をする形で配役は決められた。もちろんクラス全員が主役に立候補した。先生はあらかじめその三人を決めていたらしく、僕以外の子たちが指名された。僕が次に立候補したのが四十人の盗賊役だった。その役に手を上げる人はいなかった。その中で僕だけが手を上げた。

「じゃあ、盗賊役をしたい人はいますか?」

「はーい」

「……恵子ちゃん、その役は男の子の役なの」

先生は困ったような笑顔で言った。