ある日、花をたおろうと森に出ようとしたら咎められました。その日の夕刻、父様は手に持ち切れない程、可愛くて綺麗なお花を沢山たおって来て下さいました。父様が私を大切にして下さるのは嬉しく、とても感謝しております。けど、父様に私の病がうつってしまうのではと、心配です。貴方様もこの私に近寄らないで下さいませ」

「何を申すか? どれ、足を見せてみよ」

千世は嫌だと顔を横に振り、後ずさりした。鳳炎(ほうえん)(こう)(りゅう)は千世を抱き寄せると右足を優しく(さす)ってやり、そして静かな口調で千世に話しかけた。

「とても不自由な足には見えぬ」

千世は恥ずかしくて逃げようとしたが、自分の不自由な足を優しい眼差しで労わる鳳炎昴龍の姿に身をまかせた。

「治せるものなら治してやりたい。しかし、余にはその力がない」

千世はその優しさに感激し思わず抱き付くと、鳳炎昴龍は突然の事に驚きバランスを崩して、二人は小川へ落ちてしまった。

「アハハ! 余もそちもずぶ濡れじゃ!」

「ご免なさいませ。父様の他に優しくされたのは初めてです。ムラの者達から私は忌み嫌われておりますので……」

そう言うと、鳳炎昴龍の胸の中に顔を埋め、泣き出した。

「このままでは風邪をひくぞ。衣を乾かさねばならぬ」

鳳炎昴龍は崖の上に在る穴を見つけ、千世を抱いて飛び上がった。お互いの話をするうちに心が通い合い、二人は結ばれた。鳳炎昴龍は千世の頬を優しく撫でながら言った。

「そなたは余の后じゃ。今直ぐ天上界に昇ろう」

「こんな私で宜しいのですか?」

「足が不自由な事などは気にするな。余がそなたの足となる」

「その前に、父様に許しを頂かねばなりません」

「そうであったな。今直ぐにでもそなたを天上界に連れて行きたいが、父上様に黙って連れて行くわけにはいかぬ。これよりそなたを貰い受けるお願いに行こう」

二人は衣を整えると、千世の住むムラにやって来た。突然の訪問者に、千世の父親やムラの者達は鳳炎昴龍を縄で縛り上げ、棒で思い切り叩きこらしめた。鳳炎昴龍はあまりの痛さにこらえ切れず、龍体の姿に変化したが、じっと黙って耐えていた。千世は父親やムラの者に止めてほしいと懇願したが聞き入れてもらえず、さらに父親は鳳炎昴龍の角を石でたたき折り、尾も斧で切り落としてしまった。鳳炎昴龍はあまりの痛さに気絶し、ぐったりとしていた。

「化け物に好かれるとは、可哀相な娘じゃ。あれほど外に出るなと申したのに」

「父様。どうかお許し下さい。私はこの御方とこのムラから出て行きます」

「ならん。わしの娘が化け物と一緒になったなどと他の里の者や近くのムラに知られると、お前が不憫でわしもとても辛い。さあ、夜も更けた。お前は家に帰るのだ! 他の者も家に帰れ」

皆はムラ長に従ってそれぞれの家に帰った。千世が鳳炎昴龍の側へ近寄ろうとすると、父親は行く手を阻んだ。

鳳炎(ほうえん)(こう)(りゅう)様~」

千世は気を失って横たわる鳳炎昴龍の名を叫んだが、父親は千世の口を手で塞ぎ、家に連れて帰った。

深夜、鳳炎昴龍が目を覚ますと、折れた角と切り取られた尾を大事に抱えている千世が目の前にいた。そしてぽろぽろと涙を流し、鳳炎昴龍にそっと寄り添った。

「ご免なさい。この私に係わるとろくなことがありません。お身体を縛っていた綱は全て取り除いております。どうぞお逃げ下さい」