猫は自分の名前の単語は聞き分けられるが……

ネットで検索したけれど、なかなか見つからない。執拗に何度も探していたが、やはり、それに関する研究報告などは全くなかった。

だが、俺は分かっている。猫同士で話をしていると分かるんだ。俺が「君の名前は何て言うの」と聞いても、どの猫も何のことか分からないようで、困惑して答えられない。

それなのに、飼い主がその猫の名前で呼びかけると、飼い主の所へ飛んで行くんだ。いつも呼びかけられているその単語が自分の名前なのに、猫はそれを名前だとは思っていない。名前がどういうものか分かっていないんだ。きっと、その単語で呼ばれると、ご飯をもらえるなどいいことがあるのを知って、その単語に反応しているんだ。

つまり、猫は同じ単語で呼びかけてくれ、その度に何かご褒美のようなことをしてくれさえすれば、その単語を聞き分けられるようになるということだ。だがそこまで止まりで、その単語が自分の名前であるということは分からない。名前の認識はできないんだ。それに、猫はその単語の意味が分からないから、どんな単語で呼びかけられても、全然気にならない。頓着しない。

極論を言えば、猫側はどんな名前でもいいということになる訳だ。だが、人間の方は、猫は自分の名前を認識できると思っている。榎本さんもこれまではそう思っていた筈だ。だから、猫らしい可愛い単語の名前を付けようと、皆、種々苦心しているんだ。猫の名前には、飼い主の想いや愛情がこもっていると言ってもいい。

昔は「タマ」、「ミケ」とか猫らしい名が多かったが、最近は「ルナ」、「モモ」とか可愛い名前が流行っているそうだ。「にゃん太郎」は今ではポピュラーな名前になっているらしい。

しかし、人間の中にも、猫は呼ばれている名前の単語の意味が分からないから、名前は何でも構わないと考えて、とんでもない名前を付ける不届きな輩がいるんだ。「モップ」、「ダスター」、「ゴミ」、「ネコ」とか色々あるそうだよ。

「ネコ」という名前、けっこうあるよな。猫だから「ネコ」でどこが悪いというのが名付け人の言い分だろうけど、俺はこの方便は看過できない。人間に「ニンゲン」という名前の人はいないよ。

人間は人間にそんな人を馬鹿にしたような名前は付けないからな。だから猫にもそんなことしてはいけないよ。こういう名前を猫に付けるなんて悪ふざけでしかないよな。虐待と言ってもいいよな。猫に名前の認識ができ、差別や虐待に抗議する知能があれば、抗議運動が起きて、「私もよ」と言って参加して来る猫がゾロゾロ出て来ると思うよ。

※本記事は、2021年11月刊行の書籍『おもしろうてやがて悲しき』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。