【前回の記事を読む】ミラノで受けた感銘…日本の「本物」になりうる意外なモノとは

六、克裕、第二の試練―右足を複雑骨折―

克裕の両親と同居していた喜代子は、義母のシャンプーの匂いを、

「臭い、臭い」

と言って困らせた。

また、山歩きが好きで銀杏を拾ってきては電子レンジで温める義父に対しても、

「臭い、臭い」

と騒ぎ、義父が銀杏ぎんなんを取り出すとすぐ、義父の目の前で電子レンジの大掃除をする始末であった。

義父母は喜代子の日々の態度に愛想を尽かし、会社さえも乗っ取ろうとする喜代子をクビにする事態となる。義父はマルセンから車で十分のところに克裕夫婦の新居を見つけ、別居が始まった。ほどなく、喜代子は当てつけるように、マルセンの向かいの郵便局に勤め始める。

当時、夫婦仲は冷めきっており、克裕はストレス解消に、親友・関沢から薦められたパラグライダーを始めた。毎週日曜日、蔵王の山麓まで五十分、車を走らせ通っていた。その日も、みやぎ蔵王えぼしリゾートのスキー場から、仲間たちと上空を舞っていた。とその時、突然の突風に煽られ、克裕は足から着地しようとしたものの『ボキッ』と大きな音とともに、右足を複雑骨折してしまった。

七、(有)マルセン新店舗建設

新店舗を旧店舗の裏に建設中、パラグライダーで落下。右足を複雑骨折してしまった克裕は、松葉杖をつきながら店に通う日々が続いた。

そんなある日、閉店後、自宅に帰宅すると自宅には灯りが一つもついておらず、カギを開けて中に入ると、そこには驚きの光景が広がっていた。リビングの家具が、何一つない。台所の食器棚が、ない。大型冷蔵庫が、ない。テレビやエアコンが、ない。すべての家具がなくなって、家はもぬけの殻状態。おまけに、妻も、帰省していた長男もいない。

克裕は、愕然とした。

『一体、何が起こったのだろう……』

『これは、もしかしたら、大がかりな窃盗団の仕業かもしれない……』