第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割

Ⅱ-3 技術と経済

4.景気対策と技術

お金の世界は景気対策の場にもなっています。景気とは、物の生産と消費が活発になっているかどうかという意味と考えればよいでしょう。近代経済学では、需要と供給をつりあわせることが経済を安定させる第一だと考えているので、景気対策も需要と供給を合わせるという視点から考えられています。

その第一は金利を上げたり下げたりすることです。不景気の場合の対策としては、金利を下げると企業がお金を借りやすくなり、生産が活発になるだろうと考えます。一方、景気がよくなったときは、将来の不景気対策のときに金利を下げられるように金利を上げていきます。

しかし、現在は金利を下げただけでは景気が回復しないので、中央銀行は通貨の発行量を増やし、市中に回るお金の量を増やして、お金をどんどん使うように促しています。これが「量的金融緩和」と言われています。

金融の世界からの景気対策以外に行う景気対策は、減税や増税、公共投資などです。減税の狙いは、消費の活発化です。生産や消費における負荷を下げることで、消費を活発にさせようとするわけです。

一方、公共投資の狙いは、産業の活発化です。政府が企業に事業を発注して、政府から企業にお金を支払うことによって産業を活発にしようとするのです。このような景気対策は、その時点時点で需要と供給を合わせようとする、いわば「対症療法的な対策」です。

経済活動は、これまで見てきたように、絶えず技術革新によって成長しています。景気というのは、そのような経済の成長のなかでの需要と供給のマッチングを図ろうとするものですが、大きな流れとして経済の成長を推進している力は、技術革新などの力です。そのイメージを図表1に示します。

写真を拡大 [図表1] 技術革新による経済成長と需要・供給バランス

景気の上下はなぜ起こるのでしょうか。これまで、どのような不況が起きてきたのかを見直してみましょう。大恐慌と言われるような大きな不況を引き起こしてきたのは、図表2に示す「信用不安」です。

写真を拡大 [図表2] 信用不安から起こる大不況

1929年の世界大恐慌は、ニューヨーク・マンハッタンのウォール街における過熱した株投機に対する信用不安です。産業活動が拡大し、急成長を遂げたアメリカ経済のなかで企業の株価が異常に上昇し、その信用に対する不安が出始めると、今度は一挙に株価が暴落して企業の倒産、失業を招きました。

金融における過熱と、その後の信用不安が不況を起こしたのです。1992年の日本のバブル崩壊も、土地や株、債券、ゴルフ会員権などについて、「持っていれば、いずれ価格が上がって高く売れる」という過剰な期待が異常な価格上昇を引き起こし、逆にいったん下落を始めると、「いずれ高く売れるからこれだけ借りておこう」と考えて借りたものが返せなくなり(不良資産)、一挙に落ち込みました。日本はその後遺症に20年以上悩まされました。

2008年のリーマンショックは、アメリカにおいて金融経済が活発化し、低所得者に対する住宅ローンも取り混ぜて証券化し、いろいろなものを取り混ぜてあるから安心だと格付けすることで投資会社が収益を上げる活動が過熱しました。しかし、いったん住宅ローンを返せない事象が起こってくると、一挙に信用が崩壊して投資会社の倒産を引き起こし、アメリカにおける消費の低迷、そして、アメリカに輸出していた世界の企業へのダメージを引き起こしたものです。

こうしてみると、金融の世界の暴走と、それから引き起こされる信用不安はとても大きな悪影響を作り出すため、金融における過剰な暴走を防ぐことはとても大切です。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『人と技術の社会責任』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。