「おおかみ、わし、まむし。ひとをおそう。にげこむため」

「怖い」

また、ちさが涙声になり、みやも左右の手で両方の上腕を抱えるようにして少し身をすくめた。

「すごいな」

「すさまじい生活」

「僕は一回オオカミと戦ってみたい」

「マムシはさ、こんな建物では防げんと思うけど」

男子三人は面白がり、さゆりはニホンオオカミを一度この目で見てみたいと言い出した。はるなにはわしやマムシに襲われるということが、どういうことだか今ひとつピンとこないが、なんとなく怖そうな話だと思えた。

「いつまでもオオカミが小屋の外で頑張ってたら、どうするの?」

とショウがく。

「こやにはいしつぶて、ある。やもある。つかまえる」

話を聞いているうちに段々畑まで降りてきた。段々畑には、もう一人、洞窟の男と同じような格好をした男がいた。男の横には水の入った大きなびんや、や干し肉の入ったつぼが置かれていた。食べ物の片付けをしているようだ。

「どうした? いつもよりはやい」

「へんなの、ぞろぞろきた。ほっとけない。さき、むらにかえる」

「わかった」

「みずがめにふた。ほしにく、こやへ。たのむ」

「きをつけて」

さゆりが疑問に思ったことを男たちに尋ねた。

「ねぇ、ねぇ、その瓶の水と壺の干し肉って何なの」

作業をしていた男が瓶に目を移して言った。

「したのさわでくんだみず、むらからもってきたにく。あさ、むらからくる。ひがくれたらかえる。とちゅう、はらへる。あせかく。のどかわく。これ、ひるめし」

「たべのこし、ここにおいておく。もってかえらない」

小さな物置小屋ほどの小屋を指さして言った。

「お弁当みたいなものや。おもしろぉ」

とさゆりが納得した。大きなキハダにくくりつけられた山羊を指さしながら、ちさが、

「あの山羊が水や食料を運んどん?」

と尋ねた。

「よくわかった。えらい」と男が褒めた。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『朱の洞窟』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。