【前回の記事を読む】【小説】思いやりあふれる彼からの、少し変わったプロポーズ

婚約

その日、義父からは、学者と結婚する気構えを教えられた。

「結婚については本当にうれしく思っているんだけども、実はお願いというか、承知しておいてもらいたいことがあるんです。学者はね、貧乏なんです。貧乏な生活を覚悟してもらいたい」

理由が、私の想像を超えていた。

「博史はね、今、貧乏です。これは助手という身分上、仕方がない。大事なのは、今後、講師になり助教授になっていったときです。いろんな出版社やら団体から執筆や講演の依頼がくると思う。そのときに、お金につられて引き受けると、学者としてはダメになります。そういう若手の時期は、研究に没頭しないと、大成はできない。

それから、歳をとって教授になってからも、簡単にお金をくれるようなところには、警戒してもらいたい。教授のお墨付きをもらうために金を出すところも多いんです。だけど、学者としての名前を汚すようなところと手を組んではいかんのです。お願いできますか」

そういうことだったか、と納得した。心から頭を下げて

「わかりました。気をつけます。学者の家のことは知らないことも多いので、いろいろ教えてください」

「うん」

義父は、大きくうなずいて、傍らの義母に微笑んだ。博史を振り返ると、誇らしそうに微笑んでくれた。良いご家庭だ、その一員になるんだと胸が熱くなった。