【前回の記事を読む】【小説】取り出したのは赤ワイン…大学教授の怪しい言動

一闡提の輩

そんな瑠衣を見ていた坂東は、両目を見開き真顔になって問いただすような口調で聞いてきた。

「ところで瑠衣ちゃん、妙なこと聞くけど、君の出た鶴前総合高校吹奏楽部の顧問の島田さんまだいるの?」

「はい、島田先生は全国大会を目指して、頑張っておられます」

と瑠衣はイキイキとした声で反応した。

「確か、君が二年の三学期ごろだったと思うが、僕が島田さんから頼まれて教えに行ったの覚えてる? 君の前で言うのはなんなんだが、島田さんの音楽的センスは皆無に等しいね。だって、彼は音大出てないんだろう。よくもまあ、全国コンクールの常連校になったもんだと昔から感心してたんだ。こう言っちゃなんだが根性論で生徒たちを引っ張り、自分の名声を高めたいだけだったんじゃないかな」

瑠衣は癪にさわったが、普段通りの顔をよそおった。

「僕はいろんな学校に教えに行ったが、君の高校は行きたくなかったんだ。だってさあ、島田さんのバックには大御所の井上隆先生がおられたでしょう。君も知っての通り、井上先生といえば超有名な指揮者だし僕なんか出る幕じゃないからね」

瑠衣は“ムッ”としてたまらず、

「だったら、先生。どうしてうちの高校に教えにいらしたんですか?」

と口に出してしまった。飲みなれないワインを口にした瑠衣は、少し酔いが回ったせいか普段口にしない言動だと思い心の中で反省した。坂東は、そんな瑠衣の表情を見て顔をしかめた。

「井上先生は、三十代前半に日本で交響楽団を創設し、ヨーロッパを中心に活躍し、当時の日本人では不可能と言われていた著名なオーケストラと共演し指揮された。そのときの生演奏を収録したレコードやCD・DVDが大評判を呼んだの知ってる?

今や名盤としてその名が残り、晩年マエストロとしてクラッシックファンの耳目を集めた。僕もその一人なんだ。三年ほど前亡くなられたが、ご存命中のコンサートチケットは手に入らないくらい人気があった。言うならクラッシック音楽界のレジェンドだからね。

ベートーヴェン、ブラームスの交響曲に造詣が深く、とりわけブルックナーに関する世界的評価はピカイチで、第一人者として誰もが認める存在だった。僕は若いころから憧れてたが、井上先生のコンサートはプラチナチケットでなかなか手に入らなかったんだよ」

しかめっ面をした坂東は、さらに話を続けた。

「それほどのマエストロ井上が、一介のアマチュアバンド、それも高校生の吹奏楽部である君の高校に、お亡くなりになられる直前まで教えに行かれていたのがどうしても理解できないんだ。あれほどの人になると一振り百万が相場だが、そんな金払えっこないよね。ほとんどボランティアで教えていらしていたそうじゃない。井上先生のマネージャーが嘆いているという噂が流れてきたくらい、音楽界では有名な話だったんだよ。瑠衣ちゃん、何かそこらへんのこと知ってる?」