「母さんは警護していた仲間と共に、もう避難している! 恭子も逃げろ! エビスが迎えに来る!」

「待ってお父さん!……お父さんは一体……」

父は階段下の収納庫を開けた。恭子はこんな収納庫があるとは知らなかった。

「母さんと結婚する時にな……!」

父は階段下の収納庫から防弾服と武器を引っ張り出しながら言った。

「お義母さんに約束させられたんだ。母さんとその子供を守れってな!」

―おばあちゃんが?

バックルを留めながら父は続ける。

「父さん身体が小さいだろ?死ぬ程きつかったぞ。母さんとの結婚を許してもらえるレベルまでのスキルを習得するのはなぁ!」

その時裏口の扉が開いた。

「ヨーダ!!」

「エビス!恭子を連れて行け!」

見ると恵比寿顔が駆け寄って来る。この男と仲間!? お父さんは国家機関の職員だった?

「恭子、母さんは何も知らない。知らない方が安全なんだ。お前は一人で生きてゆけ。いいな!」

呆然ぼうぜんとする恭子を、恵比寿顔が立たせ、有無を言わせず裏口へと引っ張って行った。それを見届けもせずに、父は玄関から飛び出して行った。裏口から裏道を通って道路に出ると、何時もの車が見えた。

その瞬間、車が衝撃音と共に爆発した。近隣の住宅の窓の明かりが点灯する。開きかけた窓に、次々と銃弾が撃ち込まれた。何事かと顔を出す者は、それで皆無となった。

直後に脇道から、重装備の歩兵が湧き出てきた。金髪男の仲間だ。裏道からも複数の足音が聞こえる。前後を挟まれた形だ。絶体絶命。恭子はそう悟った。そう思った瞬間だった。

「グッ!」

兵士が数名、仰け反って倒れた。同時に軽自動車が後方から歩兵と恭子の間に滑り込んできた。

「乗って下さい!」

恵比寿顔は恭子の腕を掴み車に乗り込む。恭子は車に乗り込む瞬間に、歩兵集団に飛び込んだ1人の男を見た。

父だった。金髪男を処分した後、すぐにこちらに駆けつけたのだ。歩兵は父と交戦しながら、こちらに機銃を撃ち込んでくる。普通の軽自動車に見えたこの車は、完全防弾仕様だった。

銃弾を受けながらも、恭子を乗せた車は走り出した。恭子は慌てて後ろを振り返る。

血だらけの父が両手の銃を乱射しつつ、遠ざかる車を見て、満足げな笑顔を浮かべ何か叫んでいた。機銃の弾丸を全身に浴び、肉と血を爆ぜさせながらも、恭子の視界から見えなくなるまで父は戦い続けていた。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『スキル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。