気づくと隣には中年夫婦が私と同じような表情で栄美華の作品を眺めている。栄美華の両親だった。大人びた雰囲気を纏っている栄美華が、無邪気な子どもの顔をして嬉しそうに作品の説明をしている。

三人の姿は私がずっと憧れた理想の家族だった。栄美華は家族と世田谷区に住んでいる。幼稚舎から名門校に通っている由緒正しきお嬢様だった。父親が私立大学の教授をしており、母親は主婦をしながら留学生に学校やホームステイ先を紹介する事業に取り組んでいた。

両親は仲が良く、喧嘩をしている姿を見せたことがないそう。それは両親が結婚・出産をする前に、子どもの前では争わない、というルールを作っていたからだ。他にも、悩み事は家族で解決すること、家事は協力し合うこと、その他なんでも家族全員で助け合うことが渡邊家のルールであった。

栄美華は私や恵のような家庭環境とは無縁だ。人を批判するほど器の小さな人間ではなく、友人の苦労も自分のことのように一緒に悩んでくれる栄美華は、学内でも顔が広く人望が厚かった。私はデザインに行き詰まると必ず栄美華に相談していた。

知り合って以来、栄美華をずっと尊敬している。成績は常にトップクラスで、優しい顔に似合わず野心が誰よりもあった。デザインの事になると、自分にも他人にも評価が厳しい。しかし、思いやりのある言葉選びをする栄美華は誰の反感も買う事なく、むしろ栄美華の意見を欲しがる学生が多く存在した。栄美華の周りはいつも輝きを放って見えた。友人ながら憧れる。

「この子が親友の里奈」

栄美華が両親に私のことを紹介していた。親友と呼んでくれたことがこの上なく嬉しかったのは私だけの心に留めておいた。私の作品はたくさんの人が実際に触ってくれた。

「可愛い」

「こんな家具が欲しい」

というように実用したいと思ってくれる人がいてくれて率直に褒められるとデザイナーとしてやりがいを感じる。

最終日の授賞式、私たちのチームは優秀賞を受賞した。歓喜あふれる中、デザイナーズウィークは幕を下ろした。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『拝啓、母さん父さん』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。