【前回の記事を読む】幼い頃からの癖で悩む「人の言いなりでしか生きられないのか」

(2)母親と、元彼と

母親から距離を取ることは相変わらず難しく、母親に無視されても、母親から何か言われても、めげる気持ちが強くなって苦労した。

〈いくら気にしても、母親の横暴は変わらない、必ずそれは降ってくる〉

〈気に病んで身を竦めていても、相手が図に乗ることはあっても防ぐことにはならない〉

〈寂しさと付き合いながら、母親とは距離を置いて状況を突き放して見ることが大事〉

母親に負けない気持ち、距離を取る心の中の態度、積極的に他のことに取り組む姿勢、そういったことを繰り返し彼女に伝え続けた。元彼に対しては、それほど執着がなくなってきていた。一緒にいられたらとりあえず孤独ではない。

最近はそのように思えるし、妙にはしゃがないでも一緒にいていいような気がしてきたのだ。彼が求めてきたときは相手をすることを拒まないが、前のように寂しさを紛らわせたくて、自分から誘うようなことはなくなっていった。

〈もう少ししたら、自分でこうしようという考えがわいてきて、自分の判断で動けるようになるでしょう。あなたはきちんと母や、店長や、指導教員の言うことを聞いてやることをやり、その中で力をつけてきたのだから、これ以上顔色を窺わずに、自信を持ってやっていくのがいいでしょう〉

そして彼女が自分の考えで動き始めると、

〈自分のペースでやれるようになってきている。それを崩さないようにしよう〉

〈最近は友だちとよく出かけたり、元彼のところに行ったり、前からしてきた工夫が実を結んできている。明るく楽しそうにふるまうことができるのも能力だと思うが、前より自然になったのではないですか〉

〈自分のペースが崩れると疲れやすい。これは誰でも同じです。疲れるとネガティブになりやすい、人の顔色を窺うようにもなるでしょう。周りの目が気になりだしたら、すぐに休んだり気分転換したりしましょう〉

〈もともとは寂しさを紛らわすための努力で疲れてしまっていたが、今はちょっと余裕が出てきた。寂しさは次第に消えていくけれど、すぐにとか、一気にとかは、なくすことはできません。寂しさが薄らぐまで、寂しさと付き合いながらやっていけるようになりましょう〉

〈目標は、無理に明るくせず自分のペースを守る、寂しさを少しずつ馴らしていく〉

こういったことを伝え続ける中で、自分はやれるんだという気持ちが、自然に彼女の中に沁みこみ栄養となっていくようであった。まもなく、アルバイト先の居酒屋では、落ち着いてふるまうようになって店長からの信頼が厚くなり、後輩からも頼られることで、自信がついていったようだった。

「怒鳴られなくなりましたし、怒鳴られても、もう平気だなと思います」

指導教員は、一生懸命やれば必ずフィードバックしてくれる人だったので、これではだめと言われても、自分自身が否定されているわけではない、と自分に言い聞かせて、気持ちを切らさずに勉強を続けるようになった。

「言われたことを修正するだけでなく、こちらから疑問を聞いてみたら、喜んで親切に教えてくださいました。驚きました……」

こうして環境が整い、自分への手ごたえが強まり、就職活動が始まっても集中して取り組んでいけた。彼女は希望の就職先として、業界紙を挙げていた。

結局第一希望の会社には入れなかったが、第二だか第三希望の業界誌に就職が決まった。それとともに一人暮らしを始めることになると、母親から離れることができるという安堵感と、一人でやっていけるかという不安が本人の中でも交差していたが、最終的には学生のうちに自立の練習を始めたいという本人の言葉に、カウンセリングは終結した。

守られた環境の中でようやく独り立ちし始めた彼女は、一人になって、どれだけやっていけるだろうか。内心は祈るような思いであった。