最初の違和感

そもそも僕が性別に違和感を覚えたのはいつのことだったかというとはっきりとは分からない。それでも幼少期からの記憶にさまざまな場面でのエピソードがある。幼稚園の時だった。僕は仮面ライダーのTシャツを身に着けて、それを誇らし気に友達や幼稚園の先生に自慢していた。

「見て、これ買ってもらったの」

「恵子ちゃん、かっこいいね」

そう言いながらも担任の先生はなんて言ったらいいのか困ったような笑顔をこぼしていた。それでも嬉しそうに自慢する僕を見て、先生は理解をするように頷いてそれ以上は何も言わないようにしてくれた。

「大木君、見て。これお父さんが買ってくれたんだ、いいでしょ」

「いいなあ。仮面ライダーじゃん。僕も欲しい」

大木君は羨ましそうな顔をしていた。その顔を見ると僕は満足して、父の反対を押し切って買ってもらって良かったと思った。このTシャツは日曜日に父と母と三歳と四歳上の姉たちと買い物に行った時に買ってもらったのだ。母が僕の下着を買うために二階の下着コーナーに連れてきてくれた。そこで僕の目に留まったのはマネキンが身に着けていた仮面ライダーのTシャツだった。僕は一目でそれを気に入って父にせがんだ。姉や母は口々に反対した。

「男の子ものだからダメだよ」

「これがいい」

僕は引き下がらなかった。一度こうと決めたら絶対に貫く頑固さが僕にはあった。父も反対したが、僕の熱意に負けて買ってくれた。僕は飛び上がりながら喜んだ。その姿を見た父は笑っていた。

「恵子ちゃんって男の子みたいだよね」

いっちゃんは仮面ライダーのTシャツを自慢する僕を見て何気なく言っていた。

「そう?」

僕は特に気にすることもなく返した。いっちゃんも他の友達も両親も男の子みたいな僕を個性として受け止めてくれた。だから僕はとても自由にのびのびと成長できた。そんな四歳の僕には小さな疑問があった。ちんちんはどのタイミングで生えてくるのかということだった。

僕はずっと大人になったらちんちんが生えてくるものだと信じていた。今は女という代名詞を付けられているが、ちんちんが生えれば兄たちのようになるのだと思っていた。きっと兄たちも小さい頃はそうだったのだ、と信じていた。しかし、それが来るのはいつなのだろうか、僕は不思議に思いながら自分の股間を眺めていた。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『レインボー』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。