徐々に中が見えてきた。その時突然、

「ふんぎゃああああー……」

何の動物の鳴き声とも取れない声を発して明日美が後ろにのけ反るように尻餅をつき、蟻地獄に落ちた蟻の様相そのものに、周章狼狽し鉢状になった斜面の崩れ落ちる礫石をかき分けよじ登り、そして悲鳴を残し主体部の外へと、転がるように消えていってしまったのだ。それに連鎖して驚いた佳津彦も、半分逃げ腰状態のまま固まってしまっている。

何事が起きたのかがわからないようだ。

「なんだなんだ、どうしたどうした、なんだ、何があったんだ」

我に返った佳津彦も明日美の姿を探してすり鉢を登り、見つけた。墳丘のすぐ下に仰向けに転がり、慄然とした表情で宙を見つめて何かをつぶやいているのだ。しかも腕に鳥肌が立っているのが見て取れた。

「何あれ、人の骨じゃないの、気持ちわるっ」

佳津彦が抱き起こし心配そうに顔を覗き込む。

「どうしたんだ、どうしたっていうんだ、なんだ、何があったんだ」

先ほどから同じ言葉を二度ずつ繰り返している。その様子からも動揺の大きさを推し量ることができる。

「なんで人の骨があるのよぉー、気持ち悪いじゃないの、もういやいや、絶対ダメダメ、もう無理無理」

明日美も同様のようだ。

「なぁんだそうか、そういうわけか、ここは墓だぞ、当たり前のことじゃないか、最初からわかってたんじゃないのか」

「お墓っていったって古代のお墓じゃないの、普通は骨なんか朽ち果ててなくなってんじゃん。私は学校で骨格標本しか見た経験がないのよ、本物は知らないわよ。ああ気持ちわるっ」

ここは石灰岩の山であり酸性土壌とは違い、骨格が完全な状態で残っていたのだ。

「わかった。心配ない、後は私一人でできる。遠くで見ていなさい。でもサボっていると女王様にしかられるかもな」

理由がわかり安堵したのか佳津彦は半笑いで主体部へ戻っていき、早々に作業を再開するもののやはり一人でははかどらないようだ。それでもゆっくりと柩の蓋が開いていくのだった。

※本記事は、2021年8月刊行の書籍『魏志倭人外伝』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。