たった一つの出来事から、少しずつ人が絡み合っていく。

「彼の友達にね、色覚特性と言って色の識別ができない子がいるの」

「しきかくとくせい?」

「そう、色盲とも言われて、色の見え方が他の人とは違って見える目の病気があるの。この世界がセピアカラーや白黒、逆に赤系が紫や茶色みたいに見えてしまうの」

「え? それって、信号とかどうするんですか? 危ないですよね?」

佳奈は身体を前のめりにして聞いた。

「そうね、だから音や設備や周りの人を見て、確認しながら行動してるんだけど、先日その子のご家族が詐欺にあってしまって……」

「詐欺!?」

佳奈は突然出てきたワードに驚いて、手に持っていたティーカップを一旦テーブルに置いた。

「どう調べたのか、ある日『色覚特性の方が、色が綺麗に見える眼鏡ができました』って営業の電話があったの。実際、本当にそういうサングラスみたいな眼鏡があるみたいで、その子のお母様がすがる思いで購入したら、届いたのはただの百円ショップの眼鏡だったのよ。二つで二十万円も支払ったのに」

「えっ!? ちょっと、何ですかそれ!?」

急な展開と酷い話に、佳奈は思わず立ち上がった。それに驚いて佳奈を見る隣の席のサラリーマンに、里香は「すみません」と頭を下げながら、

「そうよね」

と言って佳奈の腕を優しく引いて、座るように促した。

「その件で相談されたけど、相手が海外経由の携帯やネットを使っていてどうしてもダメだった。つまり泣き寝入りね」

「それは……諦めたって事ですか?」

悲しげに、里香が頷いた。

何なの!? どうなってるの!?

自分だったら絶対に許せないと、腐った世の中を蹴り飛ばしてやりたいくらい腹が立って、歯を食いしばった。そして、春のあの体育館での出来事を思い出した。

力や立場が強い人ばかりが一方的に攻撃して、声を上げられない人は泣くしかないという事が実は何処にでもあって、それはもしかして大人になっても、ずっとついて回るのではないだろうか。あと数年我慢して、何処か遠くへ行ってしまえば面倒な事を考えなくて済む、という自分なりのシナリオが一瞬で崩れた。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『ギフト』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。