ちさの、「それ、ちょっと重たそう」と言う声を聞いて、男はその石を砕きだした。(しゅ)を残して、いらない所を削り落とし、ほぼ朱だけにしたら、ピンポン球より小さくなった。男は削り落とした石と同じぐらいの量の汗をかいている。

「私がいらんことを言ったから、仕事を増やしてごめんなさい」

ちさは男に謝った。ショウは小さくなった石を灯りにかざして何回も何回も眺めた。

「ポケットに入れとってな」とゲンタがショウに頼んだ。

「いまから、しゅ、むらへ、もっていく。くるか?」

男に先導されて、はるな達七人は洞窟の外に出た。洞窟に馴染(なじ)んだ目には外の光はやはり強すぎ、両手で目を覆った。しばらく目を覆っていると、景色は少しずつ色と形を取り戻してきた。男は洞窟で掘ったばかりの握りこぶしのようなグリ石を、洞窟の外にいた別の男に渡した。

「こっち、しゅ。こっち、ごみ」

ゴミを受け取った男はそれを下の方に捨てた。石は山肌をコロコロと転がり落ちていく。時々、別の石にぶつかって、大きく弾み、やがて静かになった。ゲンタが石を見送りながら独り言を言った。

「同じような石がゴロゴロしている。さっき登りにくかったんはこのゴミのせいだったんだ。ぼくら、ゴミのたまり場を登ってきたんだ。大きな木が生えていて土砂崩れを防いでいるけど、木がなかったら一気に石が下まで崩れるんじゃないかなぁ」

石が転がり落ちたのとは反対の斜面に大きな岩が何カ所かあって、それを結ぶように(ゆる)やかな坂道ができている。急な斜面をつづら折りに道が下っていく。グリ石は少なく、土が踏み固められているので、比較的歩きやすそうだ。

急な谷を横切るように坂を下りていくと隣の尾根(おね)に行き着くことができる。どこからかウグイスの声が聞こえてきた。ゲンタが口笛を吹くとさらに良く()いた。はるなにはウグイスがゲンタに返事をしたように聞こえた。

男は「しゅ」と言った方の石を持ち、この坂を下っていく。手招きされてはるな達も後に続く。ゲンタとリュウトはヘアピンカーブの手前で下の方の道まで急な斜面を(すべ)り下りた。リュウトは転んでズボンのお尻が汚れてしまった。

さらに少し下った所に、石を積み上げ、二メートル程の石垣を作り、平らな地面が作られた所がある。地面は大きな木に覆われ、いくらか日陰(ひかげ)になっている。石垣にはノキシノブが生え、(こけ)もむして、緑がかっている。(わず)かに平らな所にはフキやワラビ、(あぜ)にはイタドリやイワタバコ、それらの隙間を埋めるようにカラスノエンドウやタンポポなどの雑草が生い茂っている。タンポポの黄色い花にモンシロチョウが止まっている。ケマンの花には蜂が止まって蜜を吸っている。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『朱の洞窟』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。